大分県マンション管理適正化推進事業の概要
大分県には県庁所在地である大分市と温泉観光都市である別府市を中心に、700棟近いマンションが存在し、九州においては福岡県に次ぐマンション県だと言われており、マンションは県民の主要な居住形態として定着しています。
国土交通省が平成25年度に実施した「マンション総合調査」の結果報告書によると、マンションのストック数は年々増加しており、平成25年度末には全国でストック数約601万戸、居住人口は約1,480万人と推計されています。
その中で居住の状況調査結果の特徴として、世帯主の高齢化(60歳以上が5割超)、終の棲家と考える永住意識の高まり(52.4%)などが挙げられています。
また、調査対象マンション全体では築20年超22.9%、30年超17.0%、40年超3.8%となっており、今後、建物の高経年化も更に進んでいくと思われます。
今年4月に広島で開かれた日本マンション学会のメインシンポジウムのテーマは「人口減少とマンションの未来像」とされ、今後は高経年マンションの2つの老い(建物の老朽化と住民の高齢化)が課題となり、その解決のため、建物性能を向上させる改修、福祉施設の導入、コミュニティの活性化、住戸の2戸一化、若者のためのシェアハウス利用など各地で様々な試みが行われていると報告されています。また、近い将来に予測されている南海トラフ巨大地震など大規模災害の発生時には、津波からの一時避難所や住民の避難生活の場として、さらに人口減少下での都市のコンパクト化においては、マンションがその中心的な住まいとして期待されています。
それらの課題や期待に応えるためには、それぞれのマンションにおいて管理組合による適正な管理のもとで、建物および施設・設備の機能・性能が維持されていることが必要です。しかし、管理組合を構成する組合員(区分所有者)の意識は、役員任せ、管理会社任せなど受け身になりがちで、特に将来的、潜在的な問題や課題を認識し対応している管理組合は数少なく、役員が気づいていても先送りされることが多いのが現状です。
適正な管理が行われていないマンションでは、タイルの剥落など周辺住民へ危険を及ぼす、管理費や修繕積立金の滞納により適正な修繕・補修ができなくなる、転出者の増加や相続放棄などで空き家が増加し、大規模修繕工事や建て替えなどの意思決定ができなくなる、こうした悪循環によりスラム化が進み周辺の住環境にも悪影響を及ぼす、などの状況が危惧されます。
これまでのマンション維持・管理の適正化に関する行政の施策は、県による管理セミナー、大分市、別府市による無料相談などがありますが、いずれも参加、利用するのは、関心を持っている、課題・問題を抱えている管理組合に留まっています。
また、県内においては全国の都市部自治体が設けている専門家派遣制度や耐震診断・改修費用助成、長期修繕計画・大規模修繕工事支援など、マンションの維持・管理の質を高めるための制度や、地域のマンション管理の問題や課題を把握し、改善策の検討や管理組合の支援を行う機関を設けている自治体もなく、マンション管理士や建築士など専門家の活用も進んでいません。
さらに、今後の住宅施策としてのマンション対策を考える上での基礎資料となるようなハードである建物・設備とソフトである管理組合の運営状況などの基礎調査も行われていません。
また、人口減少社会の中で、空き家の増加とその利活用、周辺の環境に悪影響を及ぼす特定空き家への対応は、自治体での条例制定や法整備も進み既に具体的な取り組みが始まっていますが、いずれも木造戸建て住宅を対象としたもので、マンションなどの共同住宅は対象となっていません。
現在の県下にあるマンションは、建設から20年前後以内の比較的若いものが多く、住戸における空き家も多くはありません。しかし今後、適正管理が行われないままに築40年、50年というマンションが増えた時には、次のようなケースが想定されます。
① 入居者の高齢化に対応したバリアフリー改修などが行われていないため、生活上の支障が生じ転退去する人が出てくる。しかし老朽化のため、購入希望者や賃貸入居者がなく空き家が増加する。
② 空き家の増加により管理組合の役員編成や意思決定に支障がでて、必要な修繕や改修が実施できなくなる。
③ 区分所有者の死去により相続問題が発生するが、老朽化により相続放棄される物件がでてくる。売却や賃貸化できればよいが、できない場合は管理費、修繕積立金が長期滞納となり、その件数が増えれば、日常の管理もできなくなる。
④ 残った区分所有者で大規模修繕工事によるリノベーションや建替えを考えるが、法的意思決定の不成立や積立金不足により実施できずゴースト・タウン化が進み、周辺環境に対し戸建て木造住宅よりもより大きな悪影響を生じさせる。
こうした状況を回避するためには、計画修繕とともに建物性能を維持・向上させるための改修を常に実施すると同時に、そのための資金計画を立て実行するなど実効ある管理組合運営がなされている必要があります。
そのためには、課題を抱えている管理組合、適正管理に関心のある管理組合だけではなく、「今は問題ないけれど近い将来課題が顕在化するかもしれない管理組合」に対する積極的な関与と啓発が求められます。
今回の事業により多くのマンションで適正管理が行われることで、耐震化やバリアフリー化、設備の適正な更新などにより性能や機能の維持・向上が図られることとなり、良好な居住環境と資産価値が維持・向上され、終の棲家、また都市部のコンパクト化における中心的な住居として、その役割が果たされることとなります。そのことは、街の活力を維持することにも繋がります。
さらに大規模災害時には水・食料などの備蓄、自己完結でき、地域住民への支援も可能な自主防災体制が各マンションに整備され、地域の防災拠点としての役割も果たすようになります。
さらに、こうした適正管理を推進する管理組合の連合体が発足し、県内の分譲マンションに関する問題や課題の把握、改善策や支援策の検討、マンション管理に関する手引の作成やセミナーの開催などを行う自治体、関連団体、企業などと連携した支援機構とともに、管理組合に対する自主的な支援体制が構築され、好循環が生まれてきます。
マンションの適正な維持・管理を行うことで快適な住環境を保持するとともに、将来的な資産価値を維持することで相続や売却を容易に行えるようにし、人口減少のなかでの都市のコンパクト化における中心的な住まいとしての受け皿づくりを行っていきます。
(1) 今回の事業では、まず、大分市・別府市のマンション及び管理組合の適正な維持・管理上の潜在的な課題を探ることから始めます。
具体的には、当法人の調査員が別添のマンション一覧表(当法人が公表されている不動産情報をもとに作成)記載のマンションを訪問し、所定の適正管理診断書に基づき面談または事後電話連絡により聞き取り調査を行ないます。
(2) 回収した調査・診断書を当法人とマンション管理士会および建築監理協会・県建築士会等にて、管理組合(マンション)ごとに分析を行い、潜在化している(または表面化している)適正管理上の課題を整理し、その課題の類型ごとに分類し全体のデータを集計します。
(3) 分類した課題の中から、代表的な5分野を選び、それぞれに該当する管理組合の意向(解決に向けた取り組みの意志、専門家の派遣希望)を確認した上で、各2の管理組合(以下、対象管理組合という)を選定します。
5分野×2管理組合=10事例
(4) 対象管理組合の理事会に専門家を派遣し、それぞれが抱えている課題について再度確認し、具体的な改善プランを作成します。なお、派遣する専門家は次の2名1チームとします。
・管理組合の運営に関わるケース:マンション管理士2名
・建物・設備の維持管理に関わるケース:マンション管理士1名と建築士1名
・その他のケース:マンション管理士1名と必要な知識・資格を有する専門家1名
(5) 専門家は改善プランに基づく各対象管理組合・理事会をサポートし、毎月1回ミーティングを行いそれぞれの進捗状況を相互確認します。特に同一分野の2対象管理組合の両チームは相互の事例を参考にしながら効率・効果的な取り組みを模索します。
(6) 各事例については、極力補助事業終了期間までに改善の道筋を明らかにするとともに、終了後も当該対象管理組合の意向や必要性に応じて、継続してサポートを行います。なお、この場合は対象管理組合に応分の費用負担を求めます。
(7) 集計した診断結果データおよび課題解決に取り組んだ10事例を資料として取りまとめ、診断に応じてくれた各管理組合にフィードバックし、その後の適正管理の参考として活用してもらいます。あわせて、県内各自治体や関係団体にも資料提供するとともに、分譲マンションの所在する市町村ごとに「適正管理セミナー」を開催し、適正管理に向けた啓発と支援体制の整備に取り組みます。
(8) 以上の取組の過程で、管理組合相互、関係団体・企業とのネットワーク化を図り、今回の補助事業として行った専門家を活用しての解題解決システムをその連携により継続実施します
本事業において訪問調査した管理組合に働きかけながら、マンション管理組合の連合体である「大分県マンション管理組合連合会(仮称)」を発足し、会員組合をデータベース化し、抱える課題や建物・設備の形状、築年数など毎に適宜セミナーや情報交換会を開催し参加を呼び掛けます。
また、新規分譲マンションについても県下のマンション管理業者とも連携しながら、管理組合の役割と運営方法に関する説明会を開催し、会員への参加を呼び掛けていきます。そして各分野の専門家との顧問契約を結び、会員管理組合からの相談や派遣依頼に応じ、都度、専門家を派遣できる体制を構築します。
あわせて、自治体や専門家団体、マンション関連団体や企業会などで構成する「大分県マンション管理支援機構(仮称)」を組織し、県内の分譲マンションに関する問題や課題の把握、改善策や支援策の検討、マンション管理に関する手引の作成やセミナーの開催などを行いながら、会員以外の管理組合に対しても支援が可能な態勢を構築していきます。